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高松高等裁判所 昭和51年(ネ)219号 判決 1978年8月17日

主文

原判決中控訴人勝訴の部分を除きこれを取消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

本件付帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(付帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(付帯被控訴人以下控訴人という)代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除きこれを取消す。被控訴人(付帯控訴人以下被控訴人又は被控訴会社という)の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、付帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。原判決添付目録記載の不動産(以下本件不動産という)が被控訴人の所有であることを確認する。控訴人は、被控訴人に対し、本件不動産につき松山地方法務局北条出張所昭和三九年一二月二一日受付第三八三五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。付帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は、「本件付帯控訴を棄却する。付帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、被控訴会社の代表取締役として訴外富田宏を選任したその選任手続に瑕疵があり、その就任登記が不実の登記であつたとしても、右は被控訴会社の故意又は過失による登記であつて、控訴人は、訴外富田宏が昭和三九年一二月一〇日被控訴会社の代表取締役に就任した旨の登記を真実であると信じ、同月一八日右訴外人より本件不動産を買受けたのであるから、被控訴会社は、商法一四条により、右登記の不実なることをもつて善意の第三者たる控訴人に対抗することができないと述べた。(立証省略)被控訴代理人において、控訴人の右主張事実を否認する。訴外富田宏は、控訴人と共謀のうえ、被控訴会社の代表取締役に就任した旨不実の登記をなし、控訴人との間に本件売買契約を締結したものと目されるから、控訴人は不実の右登記につき善意の第三者ではないと述べた。(立証省略)

理由

本件不動産が被控訴人の所有に属するものと認めうる証拠はない。被控訴人は、昭和三九年一二月一八日その所有にかかる本件不動産を控訴人に売渡し、本件不動産は控訴人の所有に帰したものであることが明瞭であつて、その理由は以下に述べるとおりである。

被控訴会社代表取締役の選任懈怠について

成立に争いのない甲第六、第七号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一七号証、乙第五、第八号証、第一六、第一七号証の各一、二、原審証人富田宏、原審(第一ないし第三回)及び当審証人富田英一の各証言によれば、被控訴会社は、衣類、雑貨品等の販売を目的として、昭和二八年一〇月八日設立され、昭和三八年四月九日現在の取締役は、富田照太郎、富田宏(富田照太郎の三男)、徳永章之の三名であり(以上いずれも同日選任、任期二年)、代表取締役は富田照太郎であつたこと、ところが、代表取締役富田照太郎が昭和三八年七月六日死亡したため商法に定められた取締役の員数を欠くに至つたこと、しかるに、被控訴会社は、取締役及び代表取締役の適法な選任手続を怠り、その選任に関し左記のとおり不実の登記をするに至つたことが認められる(昭和三八年四月九日なされた前記取締役等の選任を無効と認めうる確証はない)。

代表取締役選任に関する不実の登記について

取締役三名の株式会社において、代表取締役たる取締役が死亡したため、残り二名の取締役で取締役会を開いたうえ、後任代表取締役を選任し、新代表取締役から、前任代表取締役の死亡による退任登記と新代表取締役の就任登記の申請をなすことは、商業登記実務の是認するところである。しかるに、前顕各証拠によれば、被控訴会社の取締役富田宏は、代表取締役の選任に関し、かような選任及び登記の手続をせず、虚偽の取締役会議事録を作成して昭和三八年七月一九日自己が代表取締役に就任した旨の登記をなし、昭和三九年七月九日富田英一(富田照太郎の長男)の申請により、適法な手続を経ないで、富田宏の代表取締役退任登記と富田英一の代表取締役就任登記がなされるや、再び虚偽の株主総会及び取締役会議事録を作成して同年一二月一〇日自己が代表取締役に就任した旨の登記をなすに至つたこと、しかし、以上の代表取締役の選任はいずれも法律上有効な選任手続を欠きその就任登記はすべて不実の登記にほかならないことが明らかである。

控訴人の商法一四条の主張について

会社の代表取締役が死亡により退任した場合において、取締役が故意に不実の代表取締役選任の登記をしたどきは、会社は、商法一四条により、その者が代表取締役でないことを善意の第三者に主張できない。しかるところ、原審証人安永来の証言によれば、控訴人は、昭和三九年一二月一八日富田宏から、同人が被控訴会社の代表取締役であると信じ、被控訴会社所有の本件不動産を買受けたものであることであることが認められる。もつとも、右安永証人の証言によれば、控訴人は、富田宏の代表取締役就任登記そのものによつて同人が被控訴会社の代表取締役であると信じたものではないことが明らかであるけれども、商法一四条にいう「善意の第三者」とは不実の登記記載と同一の事項について善意であれば足ると解されるから、被控訴会社は、富田宏がその代表取締役でなかつたことをもつて控訴人に対抗することができない。すると、本件不動産は、前記売買により控訴人の所有に帰したものというべきである。してみれば、被控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも失当として棄却を免れない。

よつて、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は不当であるからこれを取消し、被控訴人の請求をいずれも棄却し、本件付帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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